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神戸地方裁判所 昭和55年(ワ)365号 判決 1985年6月20日

原告

小野誠孝

原告

小野近恵

原告

旧性小野こと 松川真水

右三名訴訟代理人弁護士

藤原精吾

小貫精一郎

被告

川崎重工業株式会社

右代表者代表取締役

梅田善司

右訴訟代理人弁護士

北山六郎

土井憲三

主文

原告らの各請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告小野誠孝(以下「誠孝」という。)及び同小野近恵(以下「近恵」という。)に対しそれぞれ金二一三〇万円及び各内金一九三七万円に対する昭和五四年八月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告松川に対し金三四三四万七〇〇〇円及び内金三一二二万七〇〇〇円に対する同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

被告は船舶等の製造販売を目的とする株式会社である。

小野雅史(以下「雅史」という。)は昭和二七年八月三〇日生まれの男子で、同四六年四月一日から被告に雇用され、その神戸造船事業部修繕部船体課作業係に電気艤装職として勤務していた。

雅史は同五四年八月九日死亡し、その権利義務は相続により父母である原告誠孝及び同近恵(相続分各四分の一)並びに妻である原告松川(相続分二分の一)が承継した。

2  本件事故の発生

(一) 同月六日ころ被告の神戸造船所第四ドック左舷の走行足場(以下「本件足場」という。)に搭載された発電機が故障し、右足場の自力走行が不能となったため、応急措置として同ドック左舷中央部にあるスイッチボックス(電源)にキャプタイヤコード(直径三五ミリメートル、長さ一一〇メートルの被覆電線。以下「コード」という。)を接続して外部電力の供給による走行を行うこととなり、そのテスト(試運転)が必要となった。

(二) 同月九日午後四時二〇分ころから海老沢清(以下「海老沢」という。)を責任者とするテスト(以下「本件作業」という。)が開始され、雅史も同五時すぎころからこれに参加し、本件足場付近でその状況を監視していたところ、同足場の床板上の補強材にコードが接触してその被覆が破れそうな状態になっているのを発見した。

そこで雅史は直ちに本件足場の運転者であった吉武克之(以下「吉武」という。)にその旨を伝え、同人は本件足場の走行を停止させた。

雅史は同足場に乗り込み、コードを持ち上げようとしたが動かなかったため、吉武は同足場下方のドック側壁中間部の犬走りの上にいた作業員丸田邦雄(以下「丸田」という。)及び道上勝(以下「道上」という。)に対しコードを下から押し上げるよう依頼した。

その後雅史は、本件足場の油圧ユニットと発電機の間の床板上で腹ばいの姿勢になり、頭部をドック中央部方向に、脚部をドック側壁方向に向け、油圧ユニット下部と右床板との間の約一〇センチメートルのすき間からコードの状態を観察していた。

ところが、吉武が同五時二〇分ころ右雅史に気付かず同足場の走行を開始したため、雅史は右発電機とドック側壁に設置された硬質ゴム製フェンダー(以下「ゴムフェンダー」という。)との間に腹部を挾まれた。

(三) 雅史は大声を上げ直ちに救出されたが、同六時二八分腹部大動脈破裂による失血により死亡した。

3  被告の責任及び因果関係

(一) 責任原因

(1) 安全配慮義務

被告は雅史との労働契約関係に基づき同人の生命・身体を就業による危険から保護し、安全に配慮すべき後記(二)(1)ないし(4)の義務を負っていたのにこれを怠った。

(2) 工作物責任

本件足場は土地の工作物であるから、被告はその所有者として設置・保存の瑕疵につき責任を負うべきところ、右足場には後記(二)(1)の瑕疵があった。

(二) 義務又は瑕疵の内容

(1) 危険防止装置の設置・設置の瑕疵

本件足場はドック左舷(南側)の側壁上部に設置されたレール(全長一九五メートル)の上を右側壁に沿って西端と東端の間を前後に移動する作業設備であり、幅約一・四五メートル、前後の長さ約一二メートルの床板の上に西側から順次作業台、コントロールスタンド(操作盤)、油圧ユニット及び発電機が取付けられ、ドック側壁と油圧ユニット及び発電機との間は約〇・四四メートルの間隔をもった床面となっている。

他方、ドック側壁(前後の長さ約二一五メートル)の最上部には前後八か所にわたって各二個のゴムフェンダーが側壁から約〇・四二メートル突出した状態で設置されている。

右のような位置関係にあるため、本件足場の移動に伴って発電機とゴムフェンダーが極めて接近し、右足場上の作業員がゴムフェンダーに接触してこれと発電機との間に挾まれる危険があり、これは右足場設置の瑕疵である。

したがって、被告にはこれを防止するため、右足場に覆いや踏み板など右接触を回避する設備のほか、運転者からの死角をなくするミラー及び運転開始を知らせるブザーやパトライトなどの危険防止装置を設けるべき義務があった。

(2) 運転開始の合図

一般に停止中の機械の運転を急に開始した場合には、これを知らない労働者の身体に不測の危険を及ぼすおそれがある。

したがって、被告は本件足場の運転を開始する場合にも一定の合図を定め、その合図をする者を指名して、関係労働者に対し合図を行わせるべき義務があった。

(3) 監視態勢の整備

本件足場は前記(1)のとおり労働者に危険を及ぼすおそれのある機械であるから、被告はその運転を行う際にはドックサイドに監視要員を配置して事故の発生を未然に防止する態勢を整えておくべき義務があった。

(4) 作業基準の整備

被告は、本件足場の通常の運行のみならずその修理やテストの際においても、作業中の労働者の不測の事故を防止し、労働者の安全を確保するに必要かつ十分な作業基準を予め設定しておくべき義務があった。

(三) 因果関係

本件事故は、前記(二)(1)ないし(4)の被告の義務の懈怠又は本件足場設置の瑕疵があったために発生したものである。

4  原告らの損害

(一) 逸失利益

(1) 雅史の同五四年四月一日から一年間の収入は二三〇万六三五二円であるから、毎年五分の定期昇給及びベースアップを見込み、生活費を四割控除し、ホフマン方式により同人死亡の翌月である同年九月一日から定年退職する同八五年一二月三一日までの逸失利益の現価を算出すると五三〇〇万一三六七円となる。

(2) 同人の右定年時に支給される退職金は一〇九五万〇四〇〇円であり、ホフマン方式により算出した現価は四二〇万四九五三円であるところ、本件死亡により支給された退職金は四一万一七〇〇円であるから、その差額は三七九万三二五三円である。

(3) 同人の定年退職後満六七才に達する同九四年八月までの勤労による逸失利益は、労働省の資料による数値に基づき、生活費を四割控除し、ホフマン方式により現価を算出すれば四六九万九一一八円となる。

(4) したがって原告ら各自の相続分は、原告誠孝及び同近恵につき各一五三七万円、同松川につき三〇七四万円となる(一万円未満切捨)。

(二) 慰謝料

原告らは雅史の不慮の死亡により筆舌に尽しがたい精神的苦痛を受けた。その慰謝料は原告誠孝及び同近恵については各四〇〇万円、同松川については八〇〇万円が相当である。

(三) 損害の填補

(1) 原告松川は被告から香典として二〇万円、死亡弔慰金として二〇万円の各支払を受けた。

(2) 同原告は労災遺族年金として五一一万三〇〇〇円、労災遺族特別支給金として二〇〇万円の各支払を受けた。

(四) 弁護士費用

原告らはその訴訟代理人弁護士らに対し、右各請求金額の一割にあたる金額を弁護士費用として支払う旨を約した。

したがって本件の弁護士費用は、原告誠孝及び同近恵についてはそれぞれ前記(一)(4)と(二)の合計一九三七万円の一割である一九三万円、同松川については前記(一)(4)と(二)の合計から(三)を控除した三一二二万七〇〇〇円の一割である三一二万円となる(一万円未満切捨)。

5  結論

よって原告らは被告に対し、債務不履行又は不法行為による損害賠償として、同誠孝及び同近恵においてそれぞれ二一三〇万円、同松川において三四三四万七〇〇〇円並びに各内金(同誠孝及び同近恵についてはそれぞれ一九三七万円、同松川については三一二二万七〇〇〇円)に対する本件事故発生の翌日である同五四年八月一〇日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否等

1  請求原因1項は認める。

2(一)  同2項(一)は認める。

(二)  同(二)は否認する。

雅史は本件作業要員には含まれていない。

(三)  同(三)は認める。

3  同3項(一)ないし(三)は争う。

(一) 本件足場の運行中に作業員がいる場所は操作盤の前とブーム先端作業台の二か所のみであり、その他の場所へは立入が禁止されている。右二か所においては作業員がゴムフェンダーに接触する可能性は全くない構造になっているから、その他の場所についてまで右接触を回避する装置を設けるべき義務はなく、その他原告ら主張の各装置を設けるべき義務もない。

(二) 海老沢は本件作業に先立って各作業員に合図方法を指示し、本件事故直前の本件足場の運行についてもこれが励行された。

(三) 本件事故当時第四ドックには本件作業要員しかおらず、各要員が相互に監視する態勢がとられていた。

(四) 被告は本件足場の運行につき「第四ドック走行足場運転作業基準」を作成し、その運行における安全確認作業手順を定めている。

4(一)  同4項(一)は争う。

(二)  同(二)は争う。

(三)  同(三)は認める。

(四)  同(四)は争う。

三  抗弁(過失相殺)

本件事故は、本件作業要員でない雅史が海老沢に無断でこれに加わり、しかも本件事故直前に本件足場の運転台に立入ったことを吉武から注意されて一旦ドックサイドに退去したにもかかわらず、再び無断で同足場に乗り込み、運行中は立入の禁止されている本件事故発生の場所において、厳に禁止されている腹ばいの姿勢をとったことにより発生したものである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因1項(当事者)、同2項(一)(発電機の故障)及び同(三)(雅史の死亡)の各事実は当事者間に争いがない。

二  右事実に(証拠略)を総合すれば次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

1  雅史は同五四年八月当時被告の神戸造船事業部修繕部船体課作業係第五職場第五組仮灯班に所属していた。当時右第五組は海老沢を組長とし、仮灯班(走行足場の電気系統の点検修理や作業場の電気工事等を担当する。)に九名(雅史、吉武、丸田、道上、赤沢正和〔以下「赤沢」という。〕ほか四名)及び車両班(物品の運送を担当する。)に一五名の組員が配属されていた。

右仮灯班における勤務時間は午前八時から午後五時までと定められ、その日々の仕事は午前八時及び午後一時に同班の詰所で行われるミーティングにおいて、組長から各組員に与えられる指示に基づいて行い、各組員は与えられた仕事が終了すれば必ず詰所に戻って待機し、組長から残業の指示がない場合には午後五時に退勤すべきものとされていた。

2  本件足場は、修繕船の外板塗装作業などを行うための設備で同五一年五月ころ設置されたものであり、これに搭載された発電機による電力を用いてドックの側壁上部に敷設されたレール(全長一七〇メートル)の上を前後に移動する機能(最高速度は毎分二〇メートル)をもっている。右足場及びドックの概略は別紙図面(略)表示のとおりであり、右足場の床板は幅員約一・四五メートル、前後の長さは一二メートルである。

被告は、本件足場の運転につき「第四ドック走行足場運転作業基準」を定め、これに基づいて安全及び技能の教育を行い、その適格者に対して運転資格を与えていたが、雅史及び吉武は右資格を有していた。

右安全教育においては、本件足場の運行時には作業台における作業要員及び操作盤の運転者以外はその床板上に立入る必要がなく、その立入を禁止し、運転者は右走場の進行方向のレール上に障害物がないことを確認したうえ、他の物に接触しないよう常に周囲に注意し、他の作業者との間で合図をかけるよう教育されていた。

また走行中にゴムフェンダーと接触する危険を防止するため、操作盤前の床板には一段高い踏み板が設置され、また本件足場設置当初には右足場のドックサイド側の床板には運行中の立入禁止を示す虎マーク(注意を喚起するための黄と黒の斜線の表示)が付されていたが、本件事故当時はこれが消失していた。

3  同五四年八月六日本件足場に搭載された発電機が故障してその走行が不能となったが、その修理には約二か月を要するものと見込まれた。

そこで応急措置として、ドックサイド上のスイッチボックス(電源)に一一〇メートルの長さのコードを接続し、右コードをドック側壁の犬走り上に這わせたうえ、本件足場に接続して電力を供給することによりその運行を行う方法が考案され、そのテストが行われることとなった。

4(一)  海老沢組長は同月九日午前八時のミーティングにおいて、各組員に対し当日行うべき仕事の指示を与えるとともに残業はない旨説明し、吉武、丸田及び道上に対しては同日午後四時から本件作業を行うので第四ドックに集合するよう告知した。

雅史及び赤沢は、本件作業要員としては指名されず、同日午後四時ころまでに指示された仕事を完了した後、再び海老沢の指示に基づき同日午後五時前ころまで他の船舶で仮灯撤去作業を行った。

(二)  同日午後四時第四ドックサイドに海老沢、吉武、丸田及び道上のほか井若美之(以下「井若」という。)技術係員が集合し、海老沢から本件作業はコードのさばき具合を観察するのが目的である旨の説明がされ、各組員は海老沢の指示により行動し、行動を開始する際には大声で合図を送るよう指示がされた。

なお、右ドックではすでに当日の他の作業は完了し、右五名の本件作業要員以外の作業員はすべて退去していた。

海老沢からの指示の後、吉武がドック西端に停止した本件足場の操作盤に、丸田及び道上が犬走り上に、海老沢及び井若が渠底にそれぞれ配置されてその運行が開始され、右足場は同五時ころドック東端に到着した後、折り返し西端に向っての運行が開始された。

(三)  そのころ雅史及び赤沢は、同日海老沢から指示された仕事をすべて完了して仮灯班の詰所に一旦戻った後、本件作業の要員がまだ詰所に戻っていなかったのでその作業の成り行きを見るため本件作業現場のドックサイドまでかけつけ、ドック東端から西端に向って進行中の本件足場の横(南側)に近寄ったところ、吉武から危険であるからさがっておくよう注意を受けたが、その後もドックサイドの安全通路上を本件足場の走行に随伴して歩いて行った。

(四)  雅史は、本件足場がドック東端から約一五〇メートル西の位置まで移動したころ、コードが右足場床板の鋼材に接触してゴムの被覆が破損しそうな状況にあるのを発見し、吉武に対しその旨を告げた。

そこで吉武は、本件足場の走行を停止させて右状況を点検した後、被覆の破損による電流の短絡を防止するためコードと鋼材との間に緩衝材として布切れを挾むこととし、雅史及び赤沢に対しドックサイドの付近から布切れを探して持参するよう依頼した。

しかし、雅史らが直ちにこれを発見することができなかったため、吉武は右足場からドックサイドに降りて自らこれを探し求めた。

その間に雅史は、右足場に乗り込み、コードを持ち上げようとしたがその重さのため持ち上げることができないでいるうち、布切れを見つけて戻ってきた吉武から退去するよう告げられ、右足場を降りてドックサイドの安全通路に退いた。

そこで吉武は本件足場に乗り込み、ドックサイド上の赤沢に対しコードの接続された電源を切るよう依頼し、赤沢はスイッチボックスにかけ寄ってそのスイッチを切った。

そして吉武は、犬走り上の丸田らの助けを得てコードを持ち上げ、鋼材との間に布切れを挾み込んだ後、赤沢に対し再びスイッチを入れるよう依頼し、同人の合図によってこれが入れられたことを確認した。

その後吉武は、本件足場の西側(進行方向)の安全を確認し、引続いてその東側の安全につき油圧ユニット及び発電機の上部を通して、またこれらとドックサイドの間から見通してその確認をしたが、その際本件足場上に立入っている者はなかった。

そこで吉武は渠底の海老沢に対し運行開始の予告をし、これを受けた同人は犬走り上の丸田及び道上にその旨を告げた後、吉武に運行を開始するよう指示し、同人は再度進行方向及び渠底の安全を確認した後運行を開始する旨を告げて走行を始めた。

雅史は右走行の直前に本件足場に乗り込み、油圧ユニットと発電機の間からコードの状況を観察していたが、これに気付いた者はなかった。

(五)  吉武は右走行を開始して間もなくの同五時二〇分ころ叫び声を聞きつけ、直ちに走行を停止した後、周囲を見回したところ、ゴムフェンダーと発電機との間に腹部を挾まれた雅史を発見した。

雅史は直ちに救出されたが、同六時二八分神戸市兵庫区内の川崎病院において死亡した。

三  右一及び二の事実によれば、本件足場の運行時(したがって、修理やテストのための運行も当然これに含まれるものと解すべきである。)はその床板上には運転者以外立入ることを禁止され、雅史もその旨の教育を受けてこれを熟知していたものであり、吉武は本件事故直前における右足場の運行開始に先立って、雅史に対し右足場から退去するよう注意し、その運行につき定められた運転作業基準に従ってその前後の安全を確認した後、その発進の合図をしてこれを走行させたことが明らかであるから、請求原因3(一)(2)(運転開始の合図)及び同(4)(作業基準の整備)の主張はいずれも理由がない。

右のとおり本件足場の床板上はその走行中運転者以外の者の立入る必要がなく、その立入が禁止されているものであり、ドックサイドには〇・九三メートルの高さの手すりが設置されているからその運行中に誤ってこれに乗り込む者があることは通常予想できないところであり、乗り込みの防止又は乗り込み者とゴムフエンダーの接触を防止すべき装置を設置しなかったからといって、本件足場が通常有すべき安全性を欠いていたということはできず、また本件作業は第四ドックから他の作業員がすべて退去した後に行われたものであり、本件作業要員以外に監視要員を配置すべき必要性も認めることはできないから、請求原因3(一)(1)(危険防止装置の設置・設置の瑕疵)及び同(3)(監視態勢の整備)の主張はいずれも理由がない。

もっとも、(証拠略)によれば、被告は、本件事故後本件足場の作業基準について検討を行い、その運転者は走行前に右足場上への侵入者がない旨を確認することや右足場の死角部分はサイドミラーで確認することなどの項目を追加して改訂を行うとともに、本件足場のドックサイド側の床板上にさらに一段高い新たな床板を設置してゴムフェンダーとの接触がおこりえない構造に改造し、死角部分の確認を行うためのサイドミラーなどを新設したことが認められるが、これらの措置は、同種事故の再発防止を目的とし、安全効果をより高めるための改善措置と解されるから、本件事故後に右措置がとられたからといって、それ以前の本件足場に瑕疵があり、また作業基準に不備があったものと解することはできない。

四  よって、原告らの本件請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中川敏男 裁判官 上原健嗣 裁判官小田幸生は転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 中川敏男)

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